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ここの美術館の嶋田彰夫さんのスケッチ、「河原、市橋の裏通り」を拝見して、たまらなく切ない想いに駆られた。幼年の日の記憶がまざまざと蘇り、絵の中から、腕白盛りの、ちいさな私と近所の幼友達が一緒に歓声を上げながら駆けてくるのが見えるのである。魚松のハジメちゃん、十里勝(とりかつ)のタケシさん、森山機料店のハッちゃん、松村印章店のタッちゃん、織田機業場のヨッちゃんたち・・・名前の正確な漢字表記を忘れている、失礼をお赦し頂きたいが、懐かしい顔はみんな昔のままだ。
季節は夏休み、昼ごはんを食べると、後町(うしろまち)商店街の住人である私たちは申し合わせたように浄敬寺の境内に集まり、それから、徒歩で3,4分の九頭竜川堤防に面した遊び場に向かう。市橋の裏通りはその途中にあり、今はすっかり様子が変ってしまい、当時との比較も容易ではないが、「市橋の裏通り」のスケッチ右側は「また川(これも正確な表記がわからない)」という九頭竜川の支流(?)が流れていた。そこを渡り、畑を抜けると弁天堤防が自然のフェンスとなっている子供広場に到着する。まだ、勝山病院はその広場の隣にあった。私たちはそこで三角ベースの野球をひとしきり楽しんで、その後、堤防を越え、弁天で泳ぐというのが毎日のメニューだったと思う。
市橋の裏通りが私(たち)にとって格別切ない場所であるのには訳がある。
市橋の裏側の反対、表側、玄関が面している河原町通りは、当時(昭和20年代後半)、遊郭、料亭、酒場が軒を連ねて賑わう勝山の花街であった。火点し頃になると化粧したきれいなお姐さんたちが店の前に佇み始めるのを見た記憶があるが、それが意味するところは何もわかっていなかったと思う。こども心にもそこは私たちが立ち入ってはいけない大人の世界であるのを知っていたのだと思う。
けれど、私たちが遊び場に出かける頃は花街が目覚める少し前であった。遊郭と遊郭の間の道を抜けると「また川」に出る。つまり市橋の裏通りからは私たちの世界だった。「また川」には魚やトンボが群れをなし、特に市橋の裏手は私たちのセミ捕りのポイントであった。絵にも描かれているが、庭からはみ出した桜の木にミンミン蝉が何故かよくいたのである。
そんなある日、例によって、セミを捕ろうと差し出したタモ網の手元が狂って柄がセミに当たり庭の内側に落ちた。「惜しい!」私たちの中の誰かが塀に手をかけ、懸垂して中を覗いた。
瞬間、その誰かが「おい!」とくぐもった声をあげ、「見ろ!見ろ!」と小さく叫んだ、私たちは彼に続いて一斉に覗いた・・・・
今でもそれは目に焼き付いている。おそらくそこの娼妓のひとりだと思うのだが、手にタオルを持っただけで、あとは一糸まとわぬ裸で縁側に立ち、湯上りの姿態を惜しげもなくさらして、じっと、庭の池を見つめていた。
私は、女性の裸体を意識して見たのはそれが初めてだった。
私たちはその後、私たちが目撃した光景を誰ひとり口にしなかった。口に出せば叱られる、という想いが強かったからと思うけれど、それ以上に<性>的気分の目覚めが恥ずかしかったのではなかろうか。
私の「ヰタセクスアリス」である。
ただ、その時のメンバーが上の方々かどうかはまるで記憶がない。
それから、10数年が経ち、私は大学生になり、社会人になり東京へ出た。そして、帰省するたびに勝山の花街を飲み歩くようになった。遊郭はもちろん姿を消し、河原町通りは昔日の面影を残すのみであった。しかし、市橋の裏手の桜の木は変わらず、私を試すかのように青々と葉を茂らせ、枝にセミを留まらせていた。
かっちゃまねっと美術館より。嶋田 彰夫さん 「河原、市橋の裏通り(94.5.4)」


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